LEXUSに選ばれた日

新聞社からの突然の電話

LEXUSによるコンペで2016年度の京都代表の職人となったと四代目洋平

あれは、四月の初め頃でしたか。そろそろ、風彩染で、あるものを創りたい、と思っているときでした。しかし、それはかなりの大物なので、なかなか取り掛かれないだろうなと思っていました。それは、「レースカーテン」です。「動いた時に美しい着物」である風彩染が、レースカーテンになれば、最高だろうと思っていたわけです。イメージは、海辺の家の風が吹き込む姿を想像していました。

 

そこに、一本のお電話が。「京都新聞ですが、この度レクサスの主催する、LEXUS NEW TAKUMI PROJECT という、日本中の若き匠たちが都道府県から一名ずつ代表を選び、新しいものづくりに挑戦することで、次の時代をデザインしていく若者をLEXUSが、サポートするプロジェクトの、候補に選ばれました」と。「ひいては、京都代表の選考会があるので、是非、今までしてこなかった作品、世界に出せるものをプレゼンして頂きたい。」と。

僕は、「新手の詐欺か??」と思い、テンション低めでいると、電話口の方が「だ、大丈夫でしょうか??」と。ということで、四月末までに、イメージ完成図と、施工に他社の力も借りるならその会社、そして販売価格までを明記して選考資料として送ってほしい、ということになりました。

後に、ちゃんと京都新聞・読売新聞・朝日新聞に載りました(笑)

「‘‘まだ誰もやっていないこと。”「燃えるじゃないか。というか、レースカーテンだ!!ラッキー!!」と思い、取り掛かることに。いつもだが、大体、「これがしたい!!」と心から願えば、神様はチャンスをくれる。

しかし、ここからが大変だった。今までも、扇子や袱紗、行灯、バッグ、ショールなど、着物の技法を駆使したものは染めていました。

「先人のいないものへの挑戦」

しかし、レースカーテンとなると、話が違います。一番の違いは、「陽に焼けること」。これは、大変厄介なことなんです。後程詳しく書きますね。おまけに、生地も着物のように38㎝幅ではないですし、仕立ててくれる先も見付けなければなりません。

色見本です。これ、染めた時の色ですが、完成時には劇的に色が変わるんです。陶器の釉薬みたいに。

余りに大物ですから、まずは、ニトリのオーダーカーテンから、ブランド物のオーダーカーテンの値段帯や、風彩染のカーテンがどれほど特異なものかの確認の為に、あちこち回りました。

そして、仕立ては東京に行き、そちらでお願いすることに。生地もそちらで手配くださると仰いましたが、考えました。

最初はこういう可愛い色もイメージしていました。

「風彩染」は、風に動いた時、最もその美しさを発揮せねばならない。「動いた時に」美しく見えることこそが、カーテンの真髄だと思ったのです。

生地は、結局、雪解け間近の山奥まで行き、手に入れました。これまで見たことのない、優美にゆったりと翻る生地です。そこの社員さん方が仰いました。「亡くなった会長が、この生地でカーテンを作れと言っていたんです」と。不思議な偶然も重なり、生地も決まりました。

 

こうして、ひとまず段取りをつけ、思い通りに出来るかはさておき、選考資料に取り掛かります。現物がありませんから、風彩染の写真と、イメージ図も添付しました。

一番最初に描いたラフです。「動く」をテーマにしていることが伺えると思います。

提出ギリギリまで悩み、「これで落選するならそれまでのことさ」と思い提出。半月後、京都代表に確定しました。「京都は一番候補者の多い場所なので、僕も鼻が高いです」とは担当の新聞社のお言葉。後で、このプロジェクトの総監督である小山薫堂さん(くまモンや、料理の鉄人、『おくりびと』を創った人と言えばわかりやすいでしょうか)が、「このプロジェクトは、各産業の組合には声をかけていない。それよりも、本当に魅力ある人を選びたかった。国のプロジェクトではそうはいかない。だからこのプロジェクトは意味がある。」とのこと。光栄なことですね。 

ここからが本当の挑戦

さて、いざ染めようとすると、これがまた難しい。なにせ、この生地はポリエステルなのですが、(日光に強いためと、防炎加工が出来るため)これに手染めしている人がいないのです。プリントか、浸染といって、染料に浸けて染めるやり方か。風彩染は刷毛による手描きです。京都市産業技術研究所に行ったり、片っ端から染料屋さんに声掛けたりして、虚実入り混じる情報を集め、途中の蒸し加工(手描きで染めた生地は、蒸すことによって色が定着します)や、整理加工(しわ伸ばしなど)先も見付けていきました。いつもの着物の蒸し屋さんでは、出来ないのですが、様子も全然違います。僕以外の取引先は、みんな50m、100m単位の先ばかり。1メートルとかお願いしているのを、良く引き受けてくださったと思います。何もんだコイツはって感じだったと思います。染料も、着物生地の絹の染料は使えません。耐光堅牢度と呼ばれる、日焼けに対する強さも、全然足りないのです。

後々、この研究のおかげで、日傘も染められるようになります。

染めた時と出来上がりで色が変わる

本当の「産みの苦しみ」を味わうのはこれからです。様々な「初体験」は、ここまでやるかと言うくらい、全て綺麗に失敗しました。その中の一つ、この染めが最大に難しいわけの一つを書きます。それが、この、「色が変わる」ということです。

染めてる時、ほぼ無彩色なのに、蒸すと発色します。

本当に、制作は何かと進みませんでした。今までのもの創りとは明確な違いがありまして、それは、染めてもとにかく色が汚い、ということです。蒸して初めて色が出て、ぼかしの具合もハッキリわかるので、これまでのように、染めながらワクワクしたり、この場所はよくできたなってことが無いんです。

気付きました。作品の完成した瞬間っていうのは一回だけのようですが、実は作品とは、小さな完成を繰り返しているのだと。それがないのは、つらかったですね。

ちなみに制作の間、何度リピートしたか分からない『もののけ姫はこうして生まれた。』の中で、宮崎駿監督が、「作品とは出来得る限りの到達点へにじみよる全工程を言う」という言葉があって、初めて凄く分かる気がしたのを覚えています。

 

陶器焼いている人なら、この感覚が分かるでしょうか。着物では、こんなことは起こりません。しかも、「風彩染」は、「濡れ描き友禅」と呼ばれる、水で濡らしながら水彩画のように刷毛で染めるのが特徴です。

風彩染は、ダイレクトに手描きです。

おまけに色数も多く、カーテンでも、20色くらいは使います。プリントなら染料の量を調整できますが、手染めは、さらに、濡れ描きは、いつも不安定なわけです。そして、最大の難関は、「柄をつなぎ合わせること」です。

柄をつなぎ合わせる着物の技術

これは、着物でもカーテンでも同じで、二枚以上の反物を別々に染めて、それが繋がるように染めるんです。これが、難しくも世界に誇る、日本の着物の特徴なのです。

キックオフパーティー

各都道府県の代表たち。撮ってるのは50社以上の新聞社

七月。いよいよ、各地の代表たちが集うキックオフパーティーの日。品川のレクサスショールームでのパーティーでした。レクサスっていう車が、本当にすごいんだということも知れました。レクサスの整備工は、片手で折り紙で猫の顔を折れなきゃいけないんですよ。整備の前の日は、お酒も禁止。そして、お昼ごはんを出してくれたんですが、表参道の星の付くレストランのケータリング。宿泊は品川プリンスホテル。いやー、さすがです。

レクサスのオーナーしか入れない、表参道のお店に行って二次会。越前箪笥を作る、福井の代表の方は、僕の行きつけの美容院に妹さんがいはるとか、話したっけ。和気あいあいと、特別な時間と場所にいるんだと、噛みしめました。

プレ・プレゼン

それから3か月後。プレ・プレゼンに、再び東京へ。これは、年明けの本プレゼン前に、小山薫堂さんはじめとしたメンターの方々と、レクサスのみなさん、そして匠たちの前で、一人10分でプレゼンし、その場で意見をもらうというもの。

大きな会場借りてたのに、なにやら発火事件があり、前日にLEXUSの皆さま大変そうだったのを覚えています。そんな僕は、大きな試作品を持って、行ったことない丸の内だとかスカイツリーだとかを見学。重かった。

普通に観光。ただ、荷物でかすぎたけど。。

そして、いよいよプレゼン。一人5分で話、小山薫堂さん方がそれについてのコメントを仰る。曰く、「大喜利で返すようなものだから、意見言うのもすごく難しい。」ですが、そこはさすが、一瞬で返答するアイデアがみんな面白い。漫画の持ち込みでジャンプ行った時もそうでしたけど、優秀な人ってのはそんなもんですよね。

そして自分の番に。正直、未完成。やっとこさ、最初の一枚を染めたところ。色が。。。カラフル。。。

案の定、「子供部屋には良いね」とか、もう、分かったことしか言われなくて、せっかくの機会を。。ただ、小山薫堂さんが、「暖簾に良いね」と仰ったんですね。素直に暖簾も染めました。確かに良い!!他に無い。。それに、「幸せな風の吹きこむ玄関」って良いですよね。

本プレゼンへ

色味の調整が少しずつ出来てきました。

本プレゼンは年明け。三越や高島屋などの全国の百貨店や、様々なお洒落なお店、新しい何かを求めているバイヤーが訪れる、大きなイベントとなる。正月明けは必死だったなあ。毎日分刻みでスケジュール立てて、確か、大みそかは、23時45分に終えて、そのまま除夜の鐘を撞きに行ったりして。当然お正月はずっと染めていて。他のみんなも、似たようなものだったらしい。この年は、本当に着物を染められ無かったけど、もっともっとやりたかった気もする。

 

見たことないくらい大きい垂れ幕(笑)

会場は日本橋直結の大きなところ。レクサスも搬入されてた。また、イベントスタッフ会社の方なのかな、レクサスの方なのかな、ビジュアルでは分からないけど、イベントを仕切っている人たちの男前なこと!!めちゃくちゃ仕事が出来る。「ああ、こういう場所で仕事しなきゃな」って改めて感じました。プロとして、プロと仕事する。まずは、そこにたどり着かなきゃ。って。

そして、完成させました。と、言いたいのですが、まだ、完成しなかったんです。まず、一枚の薄い生地のこのカーテン、外の光が強いと、染が見えない。なので、後ろにもう一枚生地をして、光を調整することで、ここまで出来ました。しかし。。。

直感的に、まだ先があることを解っていたんです。結局、間に合わなかったんですね。自分の中で掴めるのは、もう少し先になります。ただ、嬉しい言葉も頂きました。

 

このレースカーテンは、文化になる。

LEXUSの選んだメンターの一人で、意と匠研究所代表の下川さんが、そんなことを仰ってくださったんです。

この後、京都代表として、応援してくださった、京都の三つのレクサスに、お店参りをしてきました。その中の宇治と西大路は扇子の工房体験をさせて頂き、70名ほどのレクサスオーナーの皆様の風を染めさせて頂きました。

こちらはレクサス宇治様。普段はレクサスが置いてあるショールームです。
皆様の染められた扇子に、一枚ずつその方らしい「風」を手染めしていっているところです。

そして、レクサス北大路様。ここで、レースカーテンは完成します。

「このカーテン、かっこいいじゃん」その鶴の一声で、創らせて頂くことになりました。本当に、かっこいいなと、逆に思いました。

「表のガラス全部やっちゃえば?」とも仰ってくださり。。今思えば、やれば良かった。結局、オーナーズラウンジと言う部屋の、3.6m×2.8mの窓をさせて頂くことになりました。

考えました。あの空間に、あの、洗練された空間に、どんな風が似合うのか。悩んでも出てこないものです。そして、ある日急に思いつきました。

これまでのレースカーテンには存在しない仕掛け

これが完成した風彩染のレースカーテンです。5枚に分かれているのに柄は繋がり、その奥行きを感じさせます。

 

竹は素描友禅(水墨画のような技法です)、風は濡れ描き友禅を基にした風彩染。そして、この美しさを出すための秘密。(ここでは書きません。)

レクサスオーナーは身近でもいらっしゃるもので、主治医の先生に、「カーテン見たよ!!すごいねえ!!!」って言われたり、着物の生地屋さんの社長に「拝見しました。これからも、是非一緒に何かできたらと思います。」と仰って頂けたり。

風を描くからこそ生まれる、陽とともに美しさの生まれるレースカーテン。

テレビ取材

2021年1月に放映の『京都知新』にて、レースカーテンと日傘が紹介されました。

レースカーテンについては、テレビ映像の8分50秒あたりからご覧ください。

こうして、やっとの想いで、レースカーテン・暖簾・日傘の、三つのアイテムが完成しました。いえ、それでもまだ完成は先なのかもしれませんが、ひとまず、どこにでも出せるものが出来たのではないかと思います。

どうぞ、皆さまの人生に、良い風が吹きますように。お手に取って頂けることを、心より願っております。

 

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