着物を創る喜び

この着物はご依頼から始まりました。

初めは参考写真から。桜の元で写真を撮りたいので、桜の柄とのこと。そして、着て写真を撮るときのイメージがあられるとのことで、ご紹介されたのが、漫画『大江山花伝』の茨木童子という鬼のイメージとのこと。

大江山の鬼といえば、平安の都と争った土地の豪族、あるいは源頼光の四天王と闘った鬼たち。

一条戻橋で渡辺の綱と闘った話は着物お出かけ会『ろーじ』でも巡りましたが、果たしてどんなイメージなのか。。

 

というのも、その漫画を読めば早いのですが、本屋に無いのです。名作ですが、古すぎて。

ジュンク堂や丸善に電話しても、「全国置いてません」と。

しかし、不思議なものですね、妻が掛けたジュンク堂の方が探してくださり、鹿児島に一冊だけあることが分かりました。

 

そして、四月の末にご着用とのことなので、

まずは着姿のデザイン画を。

そして、次は桜のスケッチを。と言っても、この時は三月末。咲いていない(笑)

そして何より、届いた漫画を何度か読む。

貴方の中の桜は、何色でしょう?白?ピンク?

『大江山花伝』を読むことで、全ての色味が決定した。それは、荒々しくも、優しく、切なく、純粋であり、悪であり。そんな鬼と呼ばれたものの、哀しい恋のお話だった。

後は、生地を決めて染めていくだけ。

一真工房の桜は、枝ぶりを一色や二色で染めない。なので、縫い口合わせは難しくなるが、味わいは、類を見ない。

 

そして、風彩染の形も、普段の多色とは変わった。絡まり合う鬼と人の恋を表すように、たった二つの風が吹き抜けて、色を重ねていく。そんな「風」が桜を揺らした。

出来上がって。縫い合わせる間もなくそのままお仕立てへ。縫い上がった確認をする間もなく、仕立て屋さんから直接送るような形になった。

その出来上がりを見れたのは、ほんの先日。

そして、着姿は、息をのむものだった。

テーマ通りのお姿。創るもの、着物、着る人、撮る人、背景、その全てが揃って、これが、作品なのだなと感じた。

この瞬間を体現するためには、何か一つ欠けても成し得ない。

作家冥利に尽きるとともに、一人でも多くの方に感動して頂けていたら、何よりうれしく思います。

 

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