ご飯の時間で中断された上のブログを10年ぶりに追記

追記

 

ご飯で中断された上のブログから10年以上たった僕が、追記します。

このお話には二つの大切な話があります。今の洋平の根幹を作ったエピソードです。

岡山

この時は、ある超有名ナショナルチェーンに催事に行っていました。

一悶着、と言う言葉であっさり片付けている文面があります。そこは、岡山の会場でした。

そこには、偉そうなブロック長がいました。中国地方の地域統括部長と言えば分かりやすいでしょうか。でも、もういません。会場中の店員さんから嫌われているブロック長でした。

僕は四代目です。でも、この時は、まだまだ着物のコーディネートやトークの仕方も分からない新米でした。

でも、その前の母と行った町田の会場で、変な自信をつけちゃったんですね。岡山は両親の日程の都合が悪いのもありましたが、「この会場は自分一人でやったる!!」と思ったわけです。

しかし、裏目に出ました。二日目からブロック長のいじめが始まったのです。お客様をうちのコーナーで立ち止まらないようにしだしたのです。

 

向こうからすると、かつてこのメガ呉服屋チェーンの頂点に立った、日本一(狭義における)の大先生の父や母が、かつての「戦友」である自分の会場に、何もわからない若造一人よこしたと思ったのでしょう。

それでも何とか話しかけて、そのお客様がうちのを気にいってきたことがありました。店員さんに指示して、他のコーナーに連れていかせるのです。しかも、接客の途中でアナウンスで店員さんを呼び出して、です。ブロック長室から戻り、再び接客を始める店員さんが青ざめて戻ってきて、お客様にマイナス発言を急にしだすようになり、確信しました。その時ご一緒した、一真工房の家族みたいな着付けの永松先生が、お客様の帯を結びながら、僕を見てうなづいた顔は今でも鮮明です。一枚も写真残ってなくても覚えてられてる。

 

恐らく今なら、ブロック長室に怒鳴り込んだでしょう。でも、当時の僕は起こっている出来事に呑まれ、ただ耐えました。一日中絵など描きました。僕の作務衣に描いてある可愛いあくびをしている猫ちゃんのシロ君は、この時に一日かけて描いたものです。

最終日。見るに見かねたその会場の二人のベテラン店員さんがうちの振袖を手に取りました。

そして言いました。

「先生は近寄っちゃだめよ。近寄ったら、また止められてしまうから。この振袖を、うちの在庫の振袖コーナーでお客様に見せてくるからね。」

僕は、ただ、遠くの接客を見守りました。自分のところの振袖なのに、なんの力にもなれない。永松先生も近寄れない。

お二人が、何をしているかは、素人の僕にもはっきり分かりました。

お客様にうちの振袖を気にいってもらうために、何をしているか、何を話しているか、声が聞こえる距離ではないのに、よくわかりました。

そして、在庫のプリントの振袖の5倍は値の張るうちのお振袖を、ご成約に導いてくださいました。

僕は、屋上に行って、両親に電話で報告しました。

「店員さんが売ってくれはった」と。

その時、涙が止まりませんでした。

電話口の親に聞こえないように、声を必死に殺して、号泣していました。

それで気付いたのです。すごく悔しかったのだということを。

そして、確信したんです。文化を大切になど微塵も思っていない店員もいて、自分の家は自分で守らなければならないと。

実際は、同じ店の店員さんに守ってもらったんですけどね(笑)

佐賀

そして、とても公明正大な(普通ですが)ブロック長の京都会場を挟んで、佐賀へ。ここで、あるお客様と出逢います。最終日の会場が閉まっていく中、店員さんもつかず、畳二畳だけ残したスペースで接客することになりました。「この人買わないから。3万円も出さないよ」と店員から耳打ちされていた。でも、「初めて見たけど、風彩染の着物が凄く綺麗だから、必ず最終日、仕事先の大分から戻ってくる」と、2日目の会場閉まるときににいらして、約束してくれたお客様。ここまで車を飛ばして戻ってきてくれた。僕は、段ボールの中身をもう一度開けて、着物を出していきました。

へたくそで遅い僕の仮着付。今の10倍遅かった。

精一杯喋った。一生懸命だったと思う。

そして、仮着付が完成して、感動して下さって、この方は、お着物を買ってくださった。

「はじめて人間扱いされた気がした」と仰った。

今も仲の良いこの方は、僕らの結婚式にも来てくださり、この話をすると、涙もろいから泣いてらした。

接客の大切なことを、そのとき確信しました。

 

嫌な人も良い人も、当然この世にはたくさんいます。実は、このチェーン店にも良い人が一杯いて、恩人もいます。なので、あのブロック長は最低でしたが、このチェーン店のことをどうこう言うつもりはありません。きっと、岡山も、その後は落ち着いたでしょう(笑)それはどこのお店に行ったって、どの業界だって、たぶん同じこと。誰に出逢おうと、みんな悪いとか、みんな良いとか言う年ではありませんでしたが、この時の出来事は、僕の中でとても大きかったと思います。

ちょっとブラックなお話も書きました。

でも、これは、形を変えれば、伝統文化系にはよくあるのではないでしょうか。

知らぬまに滅ぶ文化はたくさんあります。その文化に興味ない人に目を向けてくれとは言いませんが、もし自分の好きな伝統文化があれば、内情を知ってくださるのも愛かもしれませんね。

 

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